第十篇 地形
☆環境を利用する方法☆



トップページへ戻る

コーナートップへ戻る


1.原 文
 孫子曰、地形、有通者、有挂者、有支者、有隘者、有険者、有遠者、我可以往、彼可以来、曰通、通形者、先居高陽、利糧道以戦則利、可以往、難以返、曰挂、挂形者、敵無備、出而勝之、敵若有備、出而不勝、難以返不利、我出而不利、彼出而不利、曰支、支形者、敵雖利我、我無出也、引而去之、令敵半出而撃之利、隘形者、我先居之、必盈之以待敵、若敵先居之、盈而勿従、不盈而従之、険形者、我先居之、必居高陽以待敵、若敵先居之、引而去之勿従也、遠形者、勢均難以挑戦、戦而不利、凡此六者、地之道也、将之至任、不可不察也。
 故兵有走者、有弛者、有陥者、有崩者、有乱者、有北者、凡此六者、非天之災、将之過也、夫勢均、以一撃十曰走、卒強吏弱曰弛、吏強卒弱曰陥、大吏怒而不服、遇敵而自戦、将不知其能、曰崩、将弱不厳、教道不明、吏卒無常、陳兵縦横。曰乱、将不能料敵、以少合衆、以弱撃強、兵無選鋒、曰北、凡此六者、敗之道也、将之至任、不可不察也。
 夫地形者、兵之助也、料敵制勝、計険阨遠近、上将之道也、地此而用戦者必勝、不知此而用戦者必敗、故戦道必勝、主曰無戦、必戦可也、戦道不勝、主曰必戦、無戦可也、故進不求名、退不避罪、唯人是保、而利合於主、國之宝也。
 視卒如嬰児、故可與之赴深谿、視卒如愛子、故可與之倶死、厚而不能使、愛而不能令、乱而不能治、譬若驕子、不可用也。
 知吾卒之可以撃、而不知敵之不可撃、勝之半也、知敵之可撃、而不知吾卒之不可以撃、勝之半也、知敵之可撃、知吾卒之可以撃、而不知地形之不可以戦、勝之半也、故知兵者、動而不迷、拳而不窮、故曰、知彼知己、勝乃不殆、知天知地、勝乃不窮。


2.書き下し文
 孫子曰わく、
 地形には、通ずる者あり、挂ぐる者あり、支るる者あり、隘き者あり、険なる者あり、遠き者あり。  我れ以て往くべく疲れ以て来たるべきは曰ち通ずるなり。通ずる形には、先ず高陽に居り、糧道を利して以て戦えば、則ち利あり。以て往くべきも以て返り難きは曰ち挂ぐるなり。挂ぐる形には、敵に備え無ければ出でてこれに勝ち、敵若し備え有れば出でて勝たず、以て返り難くして不利なり。我れ出でて不利、彼れも出でて不利なるは、曰ち支るるなり。支るる形には、敵 我れを利すと雖も、我れ出ずること無かれ。引きてこれを去り、敵をして半ば出でしめてこれを撃つは利なり。隘き形には、我れ先ずこれに居れば、必らずこれを盈たして以て敵を待つ。若し敵先ずこれに居り、盈つれば而ち従うこと勿かれ、盈たざれば而ちこれに従え。険なる形には、我れ先ずこれに居れば、必ず高陽に居りて以て敵を待つ。若し敵先ずこれに居れば、引きてこれを去りて従うこと勿かれ。遠き形には、勢い均しければ以て戦いを挑み難く、戦えば而ち不利なり。凡そこの六者は地の道なり。将の至任にして察せざるべからざるなり。
 故に、兵には、走る者あり、弛む者あり、陥る者あり、崩るる者あり、乱るる者あり、北ぐる者あり。凡そ此の六者は天の災に非ず、将の過ちなり。夫れ勢い均しきとき、一を以て十を撃つは曰ち走るなり。卒の強くして吏の弱気は曰ち弛むなり。吏の強くして卒の弱きは曰ち陥るなり。大吏怒りて服せず、敵に遭えばうらみて自ら戦い、将は其の能を知らざるは、曰ち崩るるなり。将の弱くして敵ならず、教道も明らかならずして、吏卒は常なく兵を陳ぬること縦横なるは、曰ち乱るるなり。将 敵を料ること能わず、小を以て衆に合い、弱を以て強を撃ち、兵に選鋒なきは、曰ち北ぐるなり。凡そこの六者は敗の道なり。将の至任にして察せざるべからざるなり
 夫れ地形は兵の助けなり。敵を料って勝を制し、険夷・遠近を計るは、上将の道なり。此れを知りて戦いを用なう者は必らず勝ち、此れを知らずして戦いを用なう者は必らず敗る。故に戦道必らず勝たば、主は戦う無かれと曰うとも必らず戦いて可なり。戦道勝たずんば、主は必ず戦えと曰うとも戦う無くして可なり。故に進んで名を求めず、退いて罪を避けず、唯だ民を是れ保ちて而して利の主に合うは、国の宝なり。
 卒を視ること嬰児の如し、故にこれと深谿に赴むくべし。卒を視ること愛子の如し、故にこれと倶に死すべし。厚くして使うこと能わず、愛して令すること能わず、乱れて治むること能わざれば、譬えば驕子の若く、用うべからざるなり。
 吾が卒の以て撃つべきを知るも、而も敵の撃つべからざるを知らざるは、勝の半ばなり。敵の撃つべきを知るも、而も吾が卒の以て撃つべからざるを知らざるは、勝の半ばなり。敵の撃つべきを知り吾が卒の以て撃つべきを知るも、而も地形の以て戦うべからざるを知らざるは、勝の半ばなり。故に兵を知る者は、動いて迷わず、挙げて窮せず。  故に曰わく、彼れを知りて己れを知れば、勝 乃ち殆うからず。地を知りて天を知れば、勝 乃ち全うすべし。


3.訳 文
 孫武先生が言われている。
「地形には、普通のもの、障害があるもの、分かれているもの、狭いもの、険しいものおよび遠いものがある。味方が往くことができ、敵が来ることができるような何も無い地形は、普通の地形である。このような地形では、先に高所と日当たりを確保し、補給路を絶たれないように戦うと有利である。往くのは容易いが、帰るのが難しいのは、障害のある地形である。このような地形では、無防備な敵に対して撃って出れば勝てるが、防備が充分な敵に対しては勝てないだけでなく、撤退も難しくなる。味方が攻め込むのも不利であり、敵が攻めてくるのも不利なのは、枝道が多い地形である。このような地形では、敵がこちらを誘き出そうとしても攻め込んではならない。むしろ退却してその場を去り、敵が追撃をかけて半数が出てきた所を攻撃すべきである。狭い地形では、味方が先にその場を占拠し、必ず防備を整えて敵の来襲を待たなければならない。もし、敵が先にその場を占拠していれば、防備が万全なときは攻撃してはならず、不完全のときのみ攻撃してもよい。険しい地形では、味方が先にその場を占拠し、必ず高所と日当たりを確保して敵の来襲を待たなければならない。もし、敵が先にその場を占拠していれば、攻めかかるようなことはせずに撤退しなければならない。両軍の陣地が離れているような地形では、勢力が均衡しているような場合に戦うことは難しく、攻めかかれば不利になるだけである。以上6つが地形の活用方法である。将軍に任ぜられたからには、わからないでは済まされないことである。

 軍隊には、逃げ出すもの、緩慢となるもの、落ち込むもの、崩れるもの、乱れるものおよび敗北するものがある。これら6つは天災というものではなく、将軍の過失によって引き起こされるものである。そもそも軍勢が拮抗しているときに、味方に10倍する敵を攻撃するなど無謀な戦いをしかけるとなると、兵士達を逃げ出させることになる。兵士達の実力が、それを指揮する士官より強いと、綱紀が緩むことになる。士官達が兵士より強すぎると、戦意を喪失させることになる。士官が、怒りに任せて将軍の命令に服従せず、敵に遭遇したときには勝手な命令を出して戦わせ、将軍がその事実を知らないときは、軍隊は総崩れとなる。将軍が軟弱で威厳がなく、軍令も不明で士官もおらず、兵士達が自由気ままにしているようなときは、軍隊は乱れることになる。将軍が敵情を推察することができないことから、寡兵で大軍の敵を攻撃したり、無勢で多勢に立ち向かったり、先鋒に選りすぐりの勇士を配置できないときは、軍勢を敗北させることになる。以上6つが、敗北するときの法則である。将軍に任ぜられたからには、わからないでは済まされないことである。

 そもそも地形というのは、戦いに勝つための補助的条件にすぎない。敵情を把握して勝算を計ったり、地形の遠近険阻を測ったりすることが主要条件であり、将軍のすべきことである。地形が補助的条件であることを知っている者は、戦えば必ず勝つことができるが、知らない者は必ず負けることになる。だから、戦い方としては、必勝を期することができれば、主君が戦うなと言っても戦うべきである。反対に、必敗となりひうであれば、主君が出兵を命じても戦ってはならない。功名を第一とせずに戦うべきときに戦い、罪科を避けるために引き際を誤ってはならない。国民の生活を保護し、国益を損なわない将軍こそ、国の宝というべきである。

 兵士達を赤ん坊のように大事に接すると、兵士達は深い渓谷に赴くことを厭わなくなる。兵士達を可愛い我が子のように大事に接すると、兵士達は死地に赴くことを厭わなくなる。しかし、手厚く遇するだけで使役することができず、可愛がるばかりで命令することができず、軍規が乱れていても統率することができなければ、我侭な子供のようなもので、とてもものの役には立たなくなる。

 味方が攻撃できる態勢にあると知っていたとしても、攻撃してもよい敵であるかどうかを知らなければ、勝てるかどうか解らない。敵が攻撃できる態勢にあることを知っていたとしても、味方が攻撃できる態勢になければ、勝てるかどうかは解らない。味方が攻撃できる態勢にあり、敵が攻撃できる態勢にあることを知っていたとしても、戦えない地形であるかどうかを知らなければ、勝つかどうかは解らない。だから名将は、兵を動かしたとしても迷わず、戦ったとしても窮することはない。だからいうのである。敵を知り己を知れば、必ず勝利することができる。天を知り地を知れば、決して窮することはないと。


4.内 容
 地形には、以下の6種類がある。
 @一般的な地形〜先に高所と日当たりを確保し、補給路を絶たれないように戦うと有利である
 A障害のある地形〜無防備な敵に対して撃って出れば勝てるが、防備が充分な敵に対しては勝てないだけでなく、撤退も難しくなる
 B分岐されている地形〜敵がこちらを誘き出そうとしても攻め込んではならない。むしろ退却してその場を去り、敵が追撃をかけて半数が出てきた所を攻撃すべきである
 C狭い地形〜味方が先にその場を占拠し、必ず防備を整えて敵の来襲を待たなければならない。もし、敵が先にその場を占拠していれば、防備が万全なときは攻撃してはならず、不完全のときのみ攻撃してもよい
 D険しい地形〜味方が先にその場を占拠し、必ず高所と日当たりを確保して敵の来襲を待たなければならない。もし、敵が先にその場を占拠していれば、攻めかかるようなことはせずに撤退しなければならない
 E離れている地形〜勢力が均衡しているような場合に戦うことは難しく、攻めかかれば不利になる 以上が地形の種類とその攻め方である。

 また、軍隊の敗北条件には以下の6種がある。
 @逃げ出すもの〜勝ち目の無い戦いを仕掛け、兵士達を絶望させ、逃亡させること
 A緩慢となるもの〜兵士達の実力が士官よりも強く、抑えが効かなくなり、軍の規律が緩むこと
 B落ち込むもの〜士官達の実力が兵士よりも強すぎ、兵士が萎縮して戦意を失わせること
 C崩れるもの〜士官が将軍の命令を無視し、感情により攻撃を仕掛けて全体行動を乱しているにも関わらず、将軍がそれを収拾できないと総崩れとなること
 D乱れるもの〜将軍が軟弱で威厳がなく、軍令も不明で士官も従わず、兵士達を自由気ままに放置し、軍の規律を乱すこと
 E敗北するもの〜将軍が敵情を推察することができないことから、寡兵で大軍の敵を攻撃したり、無勢で多勢に立ち向かったり、先鋒に選りすぐりの勇士を配置できずに、軍勢を敗北させること

 しかし、地形による攻め方を知っていても、それだけで勝てる訳ではない。地形というものは、あくまで勝利の付加的条件であり、主要条件でないからである。主要条件とは、将軍がいかに勝算を立てるかである。敵情や地形を把握し、いかに無理の無い勝ち方をするかである。負ける戦いはしないというのが、名将の条件である。 また名将は、部下を子供のように可愛がるものである。可愛がられるからこそ、部下は懐いてその命令に従うのである。だからと言って、猫可愛がりなどはするものではない。可愛がると同時に厳しく接するからこそ、部下は上司を尊敬し、その命令を聞くからである。


コーナートップへ戻る

トップページへ戻る


 本サイトは、個人的な経験及び考えに基づいて構成されていますので、その内容において、正確性、信頼性および利益性を保証するものではありません。ですから、原因のいかんに関わらず、当方では、一切の責任を負いません。また、本サイトの情報に基づいて行った投資行為その他の損害についても、一切の責任を負いません。投資その他の行為については、自己資金の範囲内で慎重に行うようにして下さい。投資の最終判断、最終責任は、全てご自身でお願いします。