第九篇 行軍
☆変化の兆候を具体的に見極める方法☆



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1.原 文
 孫子曰、凡處軍相敵、絶山依谷、視生處高、戦隆無登、此處山之軍也、絶水必遠水、客絶水而来、勿迎之於水内、令半済而撃之利、欲戦者、無附於水而迎客、視生處高、無迎水流、此處水上之軍也、絶斥澤、惟亟去無留、若交軍於斥澤之中、必依水草、而背衆樹、此處斥澤之軍也、平陸處易、而右背高、前死後生、此處平陸之軍也、凡此四軍之利、黄帝之所以勝四帝也。
 凡軍好高而悪下、貴陽而賤陰、養生而所実、軍無百疾、是謂必勝、丘陵?防、必處其陽而右背之、此兵之利、地之助也。
 上雨水沫至、欲渉者、待其定也。
 凡地有絶澗天井天牢天羅天陥天隙、必亟去之、勿近也、吾遠之敵近之、吾迎之敵背之。 軍行有険阻井葭葦山林薈者、必謹覆索之、此伏姦之所處也。
 敵近而静者、恃其険也、遠而挑戦者、欲人之進也、其所居易者、利也、衆樹動者、来也、衆草多障者、疑也、鳥起者、伏也、獣駭者、覆也、塵高而鋭者、車来也、卑而廣者、徒来也、散而條達者、樵採也、少而往来者、営軍也。
 辞卑而益備者、進也、辞彊而進驅者、退也、輕車先出居其側者、陳也、無約而請和者、謀也、奔走而陳兵車者、期也、半進半退者、誘也。
 杖而立者、飢也、汲而先飲者、渇也、見利而不進者、労也、鳥集者、虚也、夜呼者、恐也、軍擾者、将不重也、旌旗動者、乱也、吏怒者、倦也、粟馬肉食、軍無懸、不返其舎者、窮寇也、諄諄翕翕、徐與人言者、失衆也、数賞者、窘也、数罰者、困也、先暴而後畏其衆者、不精之至也、来委謝者、欲休息也、兵怒而相迎、久而不合、又不相去、必謹察之。
 兵非益多也、惟無武進、足以併力料敵、取人而已、夫惟無慮而易敵者、必擒於人、卒未親附而罰之、則不服、不服則難用也、卒已親附而罰不行、則不可用也、故令之以文、斎之以武、是謂必取、令素行以教其民、則民服、令不素行以教其民、則民不服、令素行者、與衆相得也。


2.書き下し文
 孫子曰わく、
 凡そ軍を処き敵を相ること。
 山を絶つには谷に依り、生を視て高きに処り、隆き戦いては登ること無かれ。此れ山に処るの軍なり。水を絶てば必らず水に遠ざかり、客水を絶ちて来たらば、これを水の内に迎うる勿く、半ば済らしめてこれを撃つは利なり。戦わんと欲する者は、水に附きて客を迎うること勿かれ。生を視て高きに処り、水流を迎うること無かれ、此れ水上に処るの軍なり。斥沢を絶つには、惟だ亟かに去って留まること無かれ。若し軍を斥沢の中に交うれば、必らず水草に依りて衆樹を背にせよ。此れ斥沢に処るの軍なり。平陸には易に処りて而して高きを右背にし、死を前にして生を後にせよ。此れ平陸に処るの軍なり。  凡そ此の四軍の利は、黄帝の四帝に勝ちし所以なり。
 凡そ軍は高きを好みて下きを悪み、陽を貴びて陰を賎しむ。生を養いて実に処り、軍に百疾なきは、是れを必勝と謂う。丘陵堤防には必らず其の陽に処りて而してこれを右背にす。此れ兵の利、地の助けなり。
 上に雨ふりて水沫至らば、渉らんと欲する者は、其の定まるを待て。
 凡そ地に絶澗・天井・天牢・天羅・天陥・天隙あらば、必らず亟かにこれを去りて、近づくこと勿かれ。吾れはこれに遠ざかり、敵にはこれに近づかしめよ。吾れはこれを迎え、敵にはこれに背せしめよ。軍の傍に険阻・こう井・葭葦山林・□薈ある者は、必らず謹んでこれを覆索せよ、此れ伏姦の処る所なり。
 敵近くして静かなる者は其の険を恃むなり。遠くして戦いを挑む者は人の進むを欲するなり。其の居る所の易なる者は利するなり。衆樹の動く者は来たるなり。衆草の障多き者は疑なり。鳥の起つ者は伏なり。獣の駭く者は覆なり。塵高くして鋭き者は車の来たるなり。卑くして広き者は徒の来たるなり。散じて条達する者は樵採なり。少なくして往来する者は軍を営むなり。
 辞の卑くして備えを益す者は進むなり。辞の強くして進駆する者は退くなり。約なくして和を請う者は謀なり。軽車の先ず出でて其の側に居る者は陳するなり。奔走して兵を陳ぬる者は期するなり。半進半退する者は誘うなり。
 杖きて立つ者は飢うるなり。汲みて先ず飲む者は渇するなり。利を見て進まざる者は労るるなり。鳥の集まる者は虚しきなり。夜呼ぶ者は恐るるなり。軍の擾るる者は将の重からざるなり。旌旗の動く者は乱るるなり。吏の怒る者は倦みたるなり。馬に粟して肉食し、軍に懸□なくして其の舎に返らざる者は窮寇なり。諄々翕々として徐に人と言る者は衆を失うなり。数賞する者は窘しむなり。数罰する者は困るるなり。先きに暴にして後に其の衆を畏るる者は不精の至りなり。来たりて委謝する者は休息を欲するなり。兵怒りて相い迎え、久しくして合わず、又た解き去らざるは、必らず謹しみてこれを察せよ。
 兵は多きを益ありとするに非ざるなり。惟だ武進することなく、力を併わせて敵を料らば、以て人を取るに足らんのみ。夫れ惟だ慮り無くして敵を易る者は、必らず人に擒にせらる。卒未だ親附せざるに而もこれを罰すれば、則ち服せず。服せざれば則ち用い難きなり。卒已に親附せるに而も罰行なわれざれば、則ち用うべからざるなり。故にこれを合するに文を以てし、これを斉うるに武を以てする、是れを必取と謂う。令 素より行なわれて、以て其の民を教うれば則ち民服す。令 素より行なわれずして、以て其の民を教うれば則ち民服せず。令の素より信なる者は衆と相い得るなり。


3.訳 文
孫武先生が言われている。

 「地理的条件に合わせた具体的な、軍の運用方法および敵の対処方法は次のとおりとなる。山越えするときは谷に沿って行かなければならない。小高い丘を見つけたときはそこに登って周囲を偵察しなければならない。敵と交戦するときは、自軍より高い場所に居る敵と戦ってはならない。以上が、山間に展開する軍の守らなければならない事項である。渡河するときは、渡河し終わると急いで川辺から遠ざからなければならない。敵が渡河して来る場合は、渡河中に迎え撃つのではなく、敵の半分が渡河し終えたときに迎え撃たなければならない。敵と戦うときは、川辺で戦ってはならない。小高い丘を見つけたときはそこに登って周囲を偵察しなければならない。敵と交戦するときは、自軍より川上に居る敵と戦ってはならない。以上が、川辺に展開する軍の守らなければならない事項である。湖沼を通過するときは、立ち止まらずに急いで通りすぎなければならない。もし湖沼で交戦しなければならなくなったときは、水と飼料を確保し、森林を背にして応戦しなければならない。以上が、湖沼に展開する軍の守らなければならない事項である。平地では足場のいい場所にいなければならない。高地を背後と右翼に置き、敵は前方と左翼に置かなければならない。以上が、平地に展開する軍の守らなければならない事項である。これら四つの場合の用兵を知っていたからこそ、黄帝(五帝の筆頭:伝説上の明君)は天下を統一できたのである。

 一般的に軍隊が陣取るときは、高地の方が良く、低地は良くない。日当たりが良い方が良く、悪いのは良くない。兵士の健康に留意して、食住の安定した場所を選ぶのが良い。そうすれば、軍内に疫病が蔓延することもなく、必勝の軍となることができるのである。また、丘や堤防があるときは、必ず右後背にこれが来るようにし、日当たりを確保しなければならない。これは兵士達にとって良いことであり、地の助けと言えることだからである。

 川の上流で降雨があり、川が増水しているときは、直ぐに渡ろうとせず、流れが落ち着くのを待たなければならない。

 絶壁の谷間、渓流が流れ込む窪地、三方を囲まれた自然の牢獄、草木が密生して自由のきかない野原、地形の落ち込んだ泥沼および、洞穴のような地割れなどは、足早に通り過ぎて、決して近づいてはならない。こういう場所は、敵が近づくように仕向け、味方は遠ざかるようにする。敵の背後に来るよう画策し、味方は正面にくるようするのである。

 軍の近くに、険しい地形、窪地、葦原や水草が茂る場所および山林がある場合は、慎重に索敵しなければならない。このような場所に、敵の伏兵が隠れているのである。

 敵が近くにいるにもかかわらず静かでいられるのは、地形の険阻を助けとしているからである。敵が遠くにいるにもかかわらず合戦を仕掛けてくるのは、こちらを進軍させようとしているからである。敵陣が平易な場所にあるときは、利で誘い出そうとしているからである。樹木がざわめくのは、敵襲の証拠である。多量の草木を目に付く所に積んでいるのは、伏兵を疑わせようとしているのである。鳥が飛び立つのは伏兵がいる証拠である。獣が驚いて逃げ出すのは奇襲の証拠である。砂煙が高く鋭く上がるのは、足の速い戦車が攻めてくる証拠である。低く広く上がるのは、足が遅い歩兵が攻めてきた証拠である。所々に散らばって上がるのは、薪を拾っている証拠である。少しづつあちこちに往来しているのは、軍営を作ろうとしている証拠である。

 敵の使者の言葉が遜(へりくだ)り、備えを固めているような素振りを見せるときは、攻撃を仕掛けて来るという証拠である。言葉が高圧的で、軍を進めてくるような素振りを見せるときは、退却しようとしている証拠である。戦車で両脇を備えているのは、陣立てをしている証拠である。困窮もしていないのに講和したがるのは、謀略を考えている証拠である。兵や戦車を並べて奔走しているのは、出陣しようとしている証拠である。敵部隊の半数が進軍し、半数が退却しているのは、誘い出そうとしている証拠である。

 兵士が杖をついて歩いているのは、飢えているからである。水汲みの者が真っ先に水を飲むのは、飲料水が不足しているからである。利益を見ながら進撃して来ないのは、疲れているからである。鳥が集っているのは、人がいないからである。夜に呼ぶ声がするのは、怖がっているからである。軍内が騒いでいるのは、将軍に威厳がないからである。旗指物が動揺しているのは、軍内が乱れているからである。役人が怒鳴り散らしているのは、くたびれているからである。騎馬に兵糧米を与え、兵士に牛馬の肉を食べさせ、鍋や釜を壊している軍は、決死の覚悟をしているからである。上官が部下の顔色を見ながら命令しているのは、部下の心が離れているからである。賞の数が多いのは、士気が低いからである。罰が多いのは、困窮しているからである。兵士達を乱暴に扱った後、畏れるということは、無能の極みである。贈答品を携えて謝りに来るのは、休息が欲しいからである。敵兵が怒気とともに攻めてきながら、なかなか攻撃せず、また退却もしないときは、必ず戦いを謹んで敵を観察しなければならない。

 戦争は、兵士数が多ければ良いというものではない。敵を侮らずに、敵を偵察して兵力を集中して向かえば、少人数でも足りないことはない。そもそも敵を侮るような能無しは、必ず敵の捕虜となる。部下が、まだ親しみを感じていないのに罰を加えると、心服しなくなる。心服しない部下は、用い辛いものである。既に親しみを感じているのに罰を加えないでいると、軽んじられることとなり用いることができなくなる。だから、法令をもって命令し、武功を賞すれば、これを必勝の軍というのである。平素より法を実行して民を教化していれば、民は心服するものである。平素より法を実行せず民を教化しなければ、心服しないのも当然である。法令が平素より守られていれば、上下の心が一体となるのである。」


4.内 容
 さて、具体的に地理的条件に基づいて敵を観察し、これらに基づく軍の運用方法は以下の通りである。
 @山岳地帯
  ・行軍は、谷に沿って行うこと
  ・小高い場所を見つけたときは、そこから周囲を偵察すること
  ・敵と戦うときは、敵より高い位置から攻撃すること

 A川辺地帯
  ・渡河し終わると、速やかに川から離れなければならない
  ・敵が渡河してくる場合は、渡河中に攻撃するのではなく、敵の半数が渡河したときに攻撃すること。
  ・敵と対等に戦うときは、川辺を避けるべきである。
  ・小高い場所を見つけたときは、そこから周囲を偵察すること
  ・敵と戦うときは、敵より上流に位置して攻撃すること
  ・上流で降雨があったときは、水嵩が安定するまで渡河は見合わせること

 B湖沼地帯
  ・湖沼を渡るときは、一気に通過すること
  ・湖沼近辺で交戦するときは、飲料水と飼料となる水草を確保し、足場の良い森林を背にして戦うこと

 C平地地帯
  ・足場の良い、平かな場所に陣を構えること
  ・高地は、背後と右翼に置いて防御の助けにし、敵には前方と左翼にくるよう仕向けること

 D陣取りする場所
  ・高所の方がよく、低所はよくない
  ・日当たりが良い方がよく、悪いのはよくない
  ・兵士の健康に留意して、衛生が確保できる方がよい
  ・食住が安定して確保できる方がよい
  ・丘や堤防等があるときは、右側面か背後にくる方がよい

 E近寄ってはならない場所
  ・絶澗〜絶壁によって両翼を遮られている谷間
  ・天井〜四方を絶壁に囲まれ、渓流等が流れ込んでいる窪地
  ・天牢〜三方を絶壁に囲まれ、逃げ場がないような天然の牢獄
  ・天羅〜丈の低い草木が密生し、自由な動きがとりにくい平地
  ・天陥〜地形が落ち込んで、泥沼と化している場所
  ・天隙〜細長い洞窟のような地割れ

 F敵の動き
  ・陣所が近接していても平気でいられるのは、攻めにくい場所にあるからである。
  ・陣所が遠いのに戦いを仕掛けてくるのは、誘き出そうとしているからである。
  ・攻めやすい場所に布陣しているのは、誘き出そうとしているからである。
  ・樹木がざわめきだすのは、敵が攻撃を仕掛けてきたからである。
  ・多くの草木を目に付くところに積み重ねているのは、伏兵を疑わせようとしているからである。
  ・禽獣達が驚いて逃げ出しているのは、奇襲を仕掛けてきたからである。
  ・砂煙が高く鋭く上がるのは、速度の速い戦車で攻めてくるからである。
  ・砂煙が低く広く上がるのは、速度の遅い歩兵で攻めてくるからである。
  ・砂煙が所々に散らばって上がるのは、薪を拾っているからである。
  ・砂煙が少しづつあちこちに往来しているのは、軍営を作ろうとしているからである。
  ・敵の使者が下手に出ているときは、攻撃を仕掛けようとしているからである。
  ・敵の使者が高圧的に出ているときは、退却しようとしているからである。
  ・戦車で陣の両脇を備えているのは、陣立てをしているからである。
  ・困窮もしていないのに講和したがるのは、謀略を考えているからである。
  ・兵や戦車を並べて奔走しているのは、出陣しようとしているからである。
  ・敵部隊の半数が進軍し、半数が退却しているのは、誘き出そうとしているからである。
  ・兵士が杖をついて歩いているのは、飢えているからである。
  ・水汲みの者が真っ先に水を飲むのは、飲料水が不足しているからである。
  ・利益を見ながら進撃して来ないのは、疲れているからである。
  ・鳥が集っているのは、人がいないからである。
  ・夜に呼ぶ声がするのは、怖がっているからである。
  ・軍内が騒いでいるのは、将軍に威厳がないからである。
  ・旗指物が動揺しているのは、軍内が乱れているからである。
  ・役人が怒鳴り散らしているのは、くたびれているからである。
  ・騎馬に兵糧米を与え、兵士に牛馬の肉を食べさせ、鍋や釜を壊している軍は、決死の覚悟をしているからである。
  ・上官が部下の顔色を見ながら命令しているのは、部下の心が離れているからである。
  ・賞の数が多いのは、士気が低いからである。罰が多いのは、困窮しているからである。
  ・兵士達を乱暴に扱った後、畏れているということは、将軍が無能だからである。
  ・贈答品を携えて謝りに来るのは、休息が欲しいからである。
  ・敵兵が怒気とともに攻めてきながら、なかなか攻撃せず、また退却もしないときは、何か策略があるからである。


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