第八篇 九変
☆千変万化する状況を的確に捉える方法☆



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1.原 文
 孫子曰、凡用兵之法、高陵勿向、背丘勿逆、絶地勿留、佯北勿従、鋭卒勿攻、餌兵勿食、帰師勿遏、圍師必闕、窮寇勿迫、此用兵之法也。
 塗有所不由、軍有所不撃、城有所不攻、地有所不争、君命有所不受。
 故将通於九変之地利者、知用兵矣、将不通於九変之利者、雖知地形、不能得地之利矣、治兵不知九変之術、雖知五利、不能得人之用矣。
 長故智者之慮、必雑於利害、雑於利、而務可信也、雑於害、而患可解也。
 是故屈諸侯者以害、役諸侯者以業、趨諸侯者以利。
 故用兵之法、無恃其不来、恃吾有以待也、無恃其不攻、恃吾有所不可攻也。
 故将有五危、必死可殺也、必生可虜也、忿速可侮也、廉潔可辱也、愛民可煩也、凡此五者、将之過也、用兵之災也、覆軍殺将、必以五危、不可不察也。


2.書き下し文
 孫子曰く、およそ用兵の法は、高陵は向かうことなかれ。丘を背にするは逆らうことなかれ。佯わりて北ぐるに従うことなかれ。鋭卒は攻むることなかれ。餌兵は食らうことなかれ。帰師は遏むることなかれ。囲師は周することなかれ、窮寇は追ることなかれ。此れ用兵の法なり。
 塗に由らざる所あり。軍に撃たざる所あり。城に攻めざる所あり。地に争わざる所あり。君命に受けざる所あり。
 故に将、九変の利に通ずる者は、兵を用うることを知る。将、九変の利に通ぜざる者は、地形を知るといえども、地の利を得ること能わず。兵を治めて九変の術を知らざる者は、五利を知るといえども、人の用を得ること能わず。
 この故に、智者の慮は必ず利害に雑う。利に雑えて務めは信なるべきなり。害に雑えて患いは解くべきなり。
 この故に、諸侯を屈するものは害をもってし、諸侯を役するものは業をもってし、諸侯を趨らすものは利をもってす。
 故に用兵の法は、その来たらざるを恃むことなく、われのもって待つあることを恃むなり。その攻めざるを恃むことなく、わが攻むべからざる所あるを恃むなり。
 故に将に五危あり。必死は殺さるべきなり、必生は虜にさるべきなり、忿速は侮らるべきなり、廉潔は辱めらるべきなり、愛民は煩さるべきなり。およそこの五つのものは将の過ちなり、用兵の災いなり。軍を覆し将を殺すは必ず五危をもってす。察せざるべからず。


3.訳 文
 孫武先生が言われている。

 「用兵というものは、以下の『九変(常識では考えられない行動を取る必要がある9つの場合)』が重要であることを肝に銘じておかなければならない。高い丘に陣取る敵を攻めてはならない。丘を背にして攻めかかる敵を迎え撃ってはならない。行軍不能な地形にいる敵と長く対峙してはならない。策略により退却する敵を追撃してはならない。戦意の昂揚している敵を攻めてはならない。餌として囮になっている敵を食いついてはならない。帰還しようとしている敵を引き止めてはならない。包囲している敵には、逃げ道を設けておかなければならない。窮鼠と化した敵を追い詰めてはならない。

 また、以下の『五利(常識では判断し難い5つの場合)』も重要である。道といっても通ってはならない道がある。敵といっても攻撃してはならない敵がある。城といっても攻め落としてはならない城がある。土地といっても争奪してはならない土地がある。君命といっても聞き入れてはならない君命がある。

 だから、『九変』に精通してその真髄を心得ている将軍は、用兵のなんたるかを理解している者である。反対に、心得ていない将軍は、用兵のなんたるかを理解していない者であり、たとえ地形を熟知していたとしも、地の利を得ることができない者である。ましてや、『九変』自体を知らない者が兵を統率しようとすると、たとえ『五利』を知っていたとしても、兵を上手に用いることができないのは当然である

 ところで、深慮遠謀に長けた智将は、必ず表裏の関係にある利害を考える。だから利益を得る為であってもその損失まで考慮するから、物事は必ず上手くいく。損失があるときでも、それから生じる利益を知ることが出来るから、決して慌てずに済むのである。

 だから、諸侯を屈服させようとすればその害を説き、諸侯を使おうと思えばその魅力を説き、諸侯を奔走させようと思えばその利益を説くのである。

 つまり、用兵というのは、敵が来襲しないことを恃みとするのではなく、いつ来襲しても問題ない防御を恃みとし、敵が攻撃しないことを恃みとするのではなく、いつ攻撃しても問題ない態勢を恃みとするのである。

 また、将軍には、『五危(犯してはならない5つの危険な行動)』がある。死を覚悟していると殺され、生き残ろうとすると捕虜となり、激昂しやすいと侮られ、清廉であれは辱められ、部下を大事にしすぎると苦労させられるのである。以上5つのことは、将軍の起こし易い過ちであり、用兵にとって災いとなる。軍が全滅し、将軍が戦死するというときは、必ずこの『五危』のいずれかが生じているときでるから、そのことが解らないでは済まされないのである。」


4.内 容
 相手に対しては、常に攻撃を加えるべきものであるが、例外として、以下の9つの敵は攻撃してはならない。
  @高い丘に陣取っている敵
  Aを背にして攻めかかってくる敵
  B軍不能な地形にいる敵
  C撃させるために態と退却する敵
  D戦意の昂揚している敵
  E囮になっている敵
  F帰国しようとしている敵
  G囲して逃げ道の無くなった敵
  H窮鼠と化した敵


 また、以下の5つの場合は、よくよく熟考してその可不可を決めなければならない。
  @通ってもいい道かどうか。
  A攻撃してもよい敵かどうか。
  B攻め落としてもよい城かどうか。
  C争奪してもよい城かどうか。
  D聞き入れてもよい君命かどうか。


 攻撃してはならない敵の意味を知っている将軍は、戦争の方法をよく理解している者である。その意味を知らない者は、戦争の方法をよく理解していない者であり、例え地形をよく知っていても、地の利を得ることができない。ましてや攻撃してはならない敵自体を知らないのは、論外である。

 何故攻撃してはならない敵があるのか。それは、攻撃することによる利益の裏に必ず損失が潜んでいるからである。物事には必ず両面があり、利益の裏には損失が、損失の裏には利益がある。このことを理解していると、利益を得ようとしても失敗することはないし、損失を出したとしても、慌てることはない。

 将軍のしてはいけないこととして、以下の5つがある。
 @死を覚悟すると命を軽々しく扱い、攻撃が猪突猛進となり、敵に殺されることになる。
 A生き残ろうとすると死を恐れ、行動が優柔不断となり、敵に捕まることになる。
 B激昂しやすいとすぐ相手の挑発にすぐ反応してしまい、策略に乗せられ、敵に侮られることになる。
 C清廉潔白であれば、名誉を重んじるようになり、挑発しようとする敵に辱められることになる。
 D部下を大事にしすぎると、厳しい命令を出しにくくなり、敵を打ち破るために苦労させられることになる。 将軍が戦死して、部隊が全滅するときは、必ず上記のどれかに当てはまるのである。


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