第七篇 軍争
☆有利な条件を得たり、作り出したりする方法☆



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1.原 文
 孫子曰、凡用兵之法、将受命於君、合軍聚衆、交和而舎、莫難於軍争、軍争之難者、以迂為直、以患為利、故迂其途、而誘之以利、後人發、先至人、此知迂直之計也、故軍争為利、軍争為危、挙軍而争利、則不及、委軍而争利、則輜重捐、是故軍無輜重則亡、無糧食則亡、無委積則亡、是故巻甲而趨、日夜不處、倍道兼行、百里而争利、則擒三将軍、勁者先、疲者後、其法十一而至、五十里而争利、則蹶上将軍、其法半至、三十里而争利、則三分之二至。
 故不知諸侯是謀者、不能預交、不知山林険阻沮澤之形者、不能行軍、不用郷導者、不能得地利。
 故兵以詐立、以利動、以分合為変者也、故其疾如風、其徐如林、侵掠如火、不動如山、難知如陰、動如雷震、掠郷分衆、廓地分利、懸権而動、先知迂直之計者勝、此軍争之法也。
 軍政曰、言不相聞、故為金鼓、視不相見、故為旌旗者、夫金鼓旌旗者、所以一人之耳目也、人既専一、則勇者不得獨進、怯者不得獨退、此用衆之法也、故夜戦多火鼓、晝戦多旌旗、所以変人之耳目也、故三軍可奪気、将軍可奪心、是故朝気鋭、晝気惰、暮気帰、故善用兵者、避其鋭気、撃其惰帰、此治気者也、以治待乱、以静待譁、此治心者也、以近待遠、以佚待労、以飽待飢、此治力者也、無邀正正之旗、勿撃堂堂之陳、此治変者也。


2.書き下し文
 孫子曰く、およそ用兵の法は、将、命を君より受け、軍を合し衆を聚め、交和して舎す。軍争より難きはなし。軍争の難きは、迂をもって直となし、患をもって利となすにあり。故にその途を迂にしてこれを誘うに利をもってし、人に後れて発して人に先んじて至る。これ迂直の計を知る者なり。故に軍争は利たり、軍争は危たり。軍を挙げて利を争えば及ばず、軍を委して私を争たば輜重損てらる。この故に、甲を巻きて趨り、曰夜処らず、道を倍して兼行し、百里にして利を争えば、三将軍を擒にせらる。勁き者は先だち、疲るる者は後れ、その法、十にして一至る。五十里にして利を争えば上将軍を蹶す。その法、半ば至る。三十里にして利を争えば三分の二至る。
 故に諸侯の謀を知らざる者は、予じめ交わること能わず。山林、険阻、沮沢の形を知らざる者は、軍を行ることあたわず。郷導を用いざる者は、地の利を得ること能わず。
 故に兵は詐をもって立ち、利をもって動き、分合をもって変をなすものなり。故にその疾きことは風のごとく、その徐かなることは林のごとく、侵掠することは火のごとく、動かざることは山のごとく、知りがたきことは陰のごとく、動くことは雷霆のごとし。郷を掠めて衆を分かち、地を廓めて利を分かち、権を懸けて動く。迂直の計を先知する者は勝つ。これ軍争の法なり。
 軍政に曰く、「雖もあい聞えず、故に鼓鐸をつくる。視せどもあい見えず、ゆえに旌旗をつくる」。それ金鼓、旌旗は人の耳目を一にするゆえんなり。人すでに専一なれば、勇者も独り進むことを得ず、怯者も独り退くことを得ず。これ衆を用うるの法なり。故に夜戦に火鼓多く昼戦に旌旗多きは、人の耳目を変うるゆえんなり。故に三軍は気を奪うべく、将軍は心を奪うべし。この故に朝の気は鋭、昼の気は惰、暮の気は帰。故に善く兵を用うる者は、その鋭気を避けてその惰帰を撃つ。これ気を治むるものなり。治をもって乱を待ち、静をもって譁を待つ。これ心を治むるものなり。近きをもって遠きを待ち、佚をもって労を待ち、飽をもって飢を待つ。これ力を治むるものなり。正正の旗を要することなく、堂堂の陣を撃つことなし。これ変を治むるものなり。


3.訳 文
 孫武先生が言われている。

「用兵の中で、君命を受けて軍を編成して出撃し、敵と対峙するまでを『軍争』というが、これが最も難しいところである。『軍争』の難しさは、遠い廻り道を近道にしたり、害を利益に転じたりすることである。だから、敵に遠回りしているように見せかけたり、利益があるように見せかけたりして、後で出発して先に到着するという迂直の計が使えるのである。軍争は、利益となる反面、危険も隣り合わせにある。というのも、全軍を挙げて有利な場所で敵と対峙しようとすると、動きが鈍くなり、反対に敵にその場所を奪われてしまう。また、足の速い機動部隊だけを先発させると、足の遅い補給部隊等が取り残され敵の餌食となる。軍隊は、補給物資、食料および財貨を無くすと必ず敗れるものである。だから、鎧を脱ぎ捨て、昼夜兼行し、百里先にある場所を占領しようと強行すると大敗の憂き目に遭う。疲労した兵士達を置き去りにするため、到着する兵士は全体の1/10になるからである。五十里先にある場所を占領しようと強行すると先発隊が敗北の憂き目に遭う。やはり疲労した兵士達を置き去りにするため、到着する兵士は全体の1/2になるからである。三十里先にある場所を占領しようと強行すると、到着する兵士は全体の2/3になる。

 軍事行動というのは、敵の裏をかくことであり、自軍の有利に従って行動すること及び分散、集合の変化で態勢を整えることが大事なのである。

 軍隊を動かすときは、風のように早く、林のように静かに、火のように侵奪し、山のように慌てず、影のように知られ難く、雷のように動かねばならない。村から食料を調達するには部隊を分けなければならず、要所を占領するにも部隊を分けなければならず、そういうときはよくよく考えて行動しなければならないのである。迂直の計を先に知っている者が勝つ、これが軍争の基本である。

 兵法書には『戦場で命令するときには、声が聞こえないので鐘や太鼓を使用するのであり、指揮官が見えないから旗指物を使用する』とある。鐘、太鼓や旗指物を使用するということは、全兵士への命令を統一するためである。統一すると、いくら勇猛な兵士であっても勝手に抜け駆けすることができず、いくら臆病な兵士であっても勝手に退却することができない。これが大軍を率いる方法である。だから、夜戦では松明や太鼓を多く使用し、昼戦では旗指物を多く使用すれば、自軍を見誤り、敵や敵将は戦意を無くすことになる。戦意というものは、朝は高く、昼は衰え、夜になると無くなってしまうのである。 名将は、戦意の昂揚している敵を避けて、戦意の消沈している敵と戦う。このことを『気を操る』という。整然とした状態で混乱した敵と戦い、冷静な状態で興奮した敵と戦う。このことを『心を操る』という。遠征して来る敵と戦い、疲弊している敵と戦い、飢えている敵と戦う。このことを『力を操る』という。旗指物を整然と並べている敵には戦いを仕掛けず、威風堂々と陣立てしている敵には攻撃をしない。このことを『変を操る』というのである。」


4.内 容
 戦いをする場合、最も大事なものは戦いそのものではなく、戦いに至るまでの過程なのである。戦う前に既に勝っているのが必勝の基本であることから、当然の帰結とも言える。そのためには、相手に先立って有利な地形を手に入れなければならない。つまり、敵より先に戦場に到着しなければならないのである。そのためには敵を欺いたり、油断させたりする必要がある。何故なら、全軍で向かうとどうしても足が遅くなり、相手に先を越されてしまうことになる。主力部隊を先行させると補給部隊が残されることになり、相手に易々と補給路を絶たせることになる。かといって味方を強行させると疲労から落伍者が続出し、以下のような多大の損害を被ることになる。
@ 長距離を強行させると、到着する兵士数は1/10となり、いくら有利な地形を手に入れも、必ず負ける。
A 中距離を強行させると、到着する兵士数は1/2となり、先鋒部隊が全滅の憂き目に遭う。
B 短距離を強行させると、到着する兵士数は2/3となる。

だから、迂直の計が必要なのである。

 そして、その計を成功させるには、以下の事前準備が必要である。
@ 諸侯の動向を調査して、有利なように同盟する。
A 周辺の地形を調査して、行軍可能なルートを把握する。
B 土地の者の先導を得る。


  そしていざ軍事行動するとなると、以下のように動かさなければならない。
@ 風のように早く移動する。
A 林のように静かに伏せる。
B 火のように侵奪する。
C 山のように慌てない。
D 影のように知られないようする。
E 雷のように激しく攻めかかる。


  ところで、軍事行動をするに際しては、全部隊の意識を統一しておかなければならない。そうしなければ、抜け駆けや逃亡が発生する虞があるからである。また、味方の戦意を昂揚させ、相手の戦意を喪失させなければならない。


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