第三篇 謀攻
☆☆☆勝つために必要な環境を作り上げる方法☆☆☆



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1.原 文

 孫子曰、凡用兵之法、全國為上、破國次之、全軍為上、破軍次之、全旅為上、破旅次之、全卒為上、破卒次之、全伍為上、破伍次之、是故百戦百勝、非善之善者也、不戦而屈人之兵、善之善者也。
 故上兵伐謀、其次伐交、其次伐兵、其下攻城、攻城之法、為不得已、修櫓□□、具器械、三月而後成、距又三月而後已、将不勝其忿、而蟻附之、殺士三分之一、而城不找者、此攻之災也、故善用兵者、屈人之兵、而非戦也、找人之城、而非攻也、毀人之國、而非久也、必以全争於天下、故兵不頓、而利可全、此謀攻之法也。
 故用兵之法、十則圍之、五則攻之、倍則分之、敵則能戦之、少則能逃之、不若則能避之、故小敵之堅、大敵之擒也。
 夫将者國之輔也、輔周則國必強、輔隙則國必弱、故君之所以患於軍者三、不知軍之不可以進、而謂之進、不知軍之不可以退、而謂之退、是謂縻軍、不知三軍之事、而同三軍之政者、則軍士惑矣、不知三軍之権、而同三軍之任、則軍士疑矣、三軍既惑且疑、則諸侯之難至矣、是謂乱軍引勝。
 故知勝有五、知可以戦、與不可以戦者勝、識衆寡之用者勝、上下同欲者勝、以虞待不虞者勝、将能而君不御者勝、此五者知勝之道也、故曰、知彼知己者、百戦不殆、不知彼而知己、一勝一負、不知彼不知己、毎戦必殆。


2.書き下し文

 孫子曰く、凡そ用兵の法は、国を全するを上となし、国を破るはこれに次ぐ。軍を全うするを上となし、軍を破るはこれに次ぐ。旅を全うするを上となし、旅を破るはこれに次ぐ。卒を全うするを上となし、卒を破るはこれに次ぐ。伍を全うするを上となし、伍を破るはこれに次ぐ。この故に百戦百勝は善の善なるものにあらず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり。
 故に上兵は謀を伐つ。その次は交を伐つ。その次は兵を伐つ。その下は城を攻む。攻城の法は己むを得ざるがためなり。櫓・□□を修め、器械を具うること、三月にして後に成る。距また三月にして後に己る。将、その忿りに勝えずしてこれに蟻附すれば、士卒の三分の一を殺して而も城の抜けざるは、これ攻の災なり。故に善く兵を用うる者は、人の兵を屈するに、戦うに非ず。人の城を抜くに、攻むるに非ず。人の国を毀るに、久しきに非ず。必ず全をもって天下に争う。故に兵頓れずして利全かるべし。これ謀攻の法なり。
 故に用兵の法、十なれば、則ちこれを囲み、五なれば、則ちこれを攻め、倍すれば、則ちこれを分かち、 敵すれば、則能ちこれと戦い、少なければ、則能ちよくこれを逃れ、若かざれば、則能ちよくこれを避く。故に小敵の堅は大敵の禽なり。
 それ将は国の輔なり、輔、周なれば国必ず強く、輔、隙あれば国必ず弱し。故に君の軍に患るゆえんは三あり。軍の進むべからざるを知らずして、これに進めといい、軍の退くべからざるを知らずして、これに退けと謂う。これを軍を縻すと謂う。
 三軍の事を知らずして三軍の政を同じくすれば、軍士疑う。三軍の権を知らずして三軍の任を同じくすれば、軍士疑う。三軍すでに惑いかつ疑えば、諸侯の難至る。これを軍を乱して勝を引くと謂う。
 故に勝を知るに五あり。もって戦うべきをもって戦うべからざるとを知る者は勝つ。衆寡の用を識る者は勝つ。上下の欲を同じくする者は勝つ。虞をもって不虞を待つ者は勝つ。将、能にして君の御せざる者は勝つ。この五者は勝を知るの道なり。 故に曰く、彼を知り己れを知れば、百戦して殆うからず。彼を知らずして己れを知れば、一勝一負す。彼を知らず己れを知らざれば、戦うごとに必ず殆うし。


3.訳 文

 孫武先生が言われている。
「戦争を行なうには、敵国を攻めずに屈服させるのが上策であり、攻め破るのは次策である。敵軍を攻めずに屈服させるのが上策であり、攻め破るのは次策である。敵大隊を攻めずに屈服させるのが上策であり、攻め破るのは次策である。敵中隊を攻めずに屈服させるのが上策であり、攻め破るのは次策である。敵小隊を攻めずに屈服させるのが上策であり、攻め破るのは次策である。だから、100回戦って100回勝っても、最善の勝ち方ではないのである。戦わずに敵を屈服させてこそ、最善の勝ち方なのである。

 だから、最良の策というのは、敵の謀略を看破して心理的ダメージを与えて降伏させることであり、次の策は、敵の外交関係を分断して孤立化させることにより降伏させることであり、その次の策は、敵軍を野戦で打ち破って降伏させることであり、攻城戦と言うのは下の下の策である。攻城戦というのは、止むを得ない場合に行なうものである。攻城戦用の道具や武器を製作するには3ヶ月程度の期間が必要であり、土塁等の建設には更に3ヶ月程度の期間が必要となる。将軍が、この準備期間を待つことができずに、無理に総攻撃をかければ、全軍の1/3を失っても、まだ城が落ちないという憂き目にあう。これは攻撃側にとって悲劇としか言いようが無い。だから稀代の名将というのは、敵を屈服させたとしても戦わず、敵城を落としたとしても攻めず、敵国を討ったとしても長期化させていないのである。必ず兵力を全うして天下の覇権を争うので、戦力を疲弊させずに、利益の全てを得ることが出来るのである。これが謀略による戦い方なのである。

 次に野戦に突入した場合の戦い方として、敵の10倍の兵力であれば敵軍を包囲し、5倍の兵力であれば地形や態勢を整えて敵軍を攻め、2倍の兵力であれば敵軍を分断して各個撃破し、等しい兵力であれば堅陣を築いて敵軍の隙を待たなければならない。また、敵より少ない兵力であれば敵軍から逃げ、少なすぎれば見つからないように避けなければならない。何故なら、無理に寡兵で戦うことは、敵軍の捕虜になるのが関の山だからである。

 ところで、そもそも将軍というものは、国の輔弼となるべき者であって、君主との関係が親密であれば、その国は強くなり、君主との関係に隙間があれば、その国は弱くなるものである。何故なら、君主が将軍を信頼できずに、軍に干渉した場合、憂慮すべきことが3つ起こるからである。まず、進軍してはならないことを知らずに進軍を命じたり、退却してはならないことを知らずに退却を命じたりして、軍を束縛することである。次に、軍隊のことを何も知らないのに、軍政に口を挟み、軍を迷わせることである。最後に、作戦のことを何も解らないのに、作戦に口を挟み、軍に疑心を抱かせることである。既に軍が戸惑い、疑心暗鬼に陥っていたら、そのことを知った第三国が攻め入ってくるのは当然である。だからこれを「軍を乱して、勝利を譲る」と言うのである。

 以上のことをまとめると、次の5つの条件を知っている者が、勝利を収めるのである。まず、戦うべき時とそうでない時を知っている者が勝つ。次に、多勢と無勢の用い方を知っている者が勝つ。そして、将軍から兵士までが心を一つにしていれば勝つ。それから、よく準備をして準備をしていない敵と戦えば勝つ。最後に、主君が名将を用いて、軍に干渉しなければ勝つ。これら5つの条件が、勝利を知る者への道である。だから私は言うのである。『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず。(敵の実力を見極め、己の力を客観的に判断して敵と戦えば、100戦したところで危機に陥るようなことはない。)敵の実力を見極めようとせず、己の力だけを客観的に判断して敵と戦えば、勝つか負けるかはわからない。敵の実力を見極めようとせず、己の力すら客観的に判断できないで敵と戦えば、戦う度に危機に陥るであろう。』


4.内 容

 戦争というのは、まず敵を降伏させることを考え、打ち破るのは二の次である。だから『天下の名将』というのは、『常勝の英雄』ではない。戦わずして勝つ、つまり、楽をして勝っているような者が、真の『天下の名将』なのである。というのも、楽をして勝つというのは、実戦の前の謀略戦で勝利しているから勝てるのであり、水面下の戦いで勝利しているのである。

 このことを戦略レベルで応用すると、次のとおりとなる。
  《優》 〜 敵の策略を潰して心理的ダメージを与え、降伏するよう仕向ける。
  《良》 〜 敵の外交関係を分断して孤立させ、降伏するよう仕向ける。
  《可》 〜 敵の軍隊を打ち破り、降伏するよう仕向ける。
  《不可》〜 敵の本拠地を叩く。

 次に戦術レベルで応用し、兵力差で説明すると、以下の通りとなる。
  10倍の兵力 〜 敵を取り囲んで逃げ道を無くし、降伏するよう仕向ける。
   5倍の兵力 〜 敵を間断なく攻め立てて疲労を蓄積させて、降伏するよう仕向ける。
   2倍の兵力 〜 敵を分断して各個撃破し、戦意を喪失させて、降伏するよう仕向ける。
   同等の兵力 〜 敵を不利な条件に追いつめてから戦う。
   少ない兵力 〜 伏兵を用意しながら、基本的には逃げる。
   極少の兵力 〜 見つからないよう隠れる。万が一見つかれば、とにかく逃げる。

 以上のようなことを理解している名将がいたとしても、君主がその足を引っ張っていては元も子もない。名将を用いる君主としては、次の3点に注意すべきである。
  @ 進軍、撤退について将軍を差し置いて命令しない。
  A 軍政について将軍を差し置いて命令しない。
  B 指揮について将軍を差し置いて命令しない。


 以上のことをまとめると、必勝の条件は次の5点となる。
  @ 戦うべきときと戦わべからざるときの区別がわかること。
  A 大軍と少軍の用兵術を身につけていること。
  B 全軍挙げて目標を一つに定めていること。
  C 戦いの準備を整えた後、未だ整えていない敵を攻めること。
  D 君主が将軍の用兵に干渉しないこと。


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