韓子(韓非子)
☆☆☆人と上手に付き合うための方法を徹底追求☆☆☆



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第10篇 十過
第8節 過ちは失笑のもと

 『過ちを犯しているにもかかわらず、それに対する忠臣の諫言無視し、世間の失笑を買うこと。』とはどういうことか。

 昔、斉国の桓公が諸侯を糾合して天下を一つにまとめ、春秋の五覇の筆頭となれたのは、宰相たる管仲の功績であった。その管仲が年老いて、余命幾許もなくなったときのこと。桓公は、管仲亡き後を心配して、見舞いがてら相談した。

 「もし仲父(ちゅうほ:管仲のこと。管仲を父のように尊敬しているという意味)に万が一のことがあれば、その後任は、誰に任せたら良いだろうか。」

 「私は年老いて、物事の分別がイマイチつきにくくなりましたので、陛下の思われる者を挙げてみてください。」

 「ならば、鮑叔牙はどうであろうか。」

 「いけません。鮑叔牙の性格は、強情で捻くれていて、直ぐにカッとなります。強情ということは人民を粗暴に扱うことになり、捻くれるということは人民の信望が得られなくなり、直ぐにカッとなるということは人民を用いることはできないということです。恐れを知らない性格は、覇者の補佐にはなれないのです。」

 「ならば、豎□はどうであろうか。」

 「いけません。そもそも人として、わが身を大事にしない者などいません。それなのに豎□は、陛下が好色で嫉妬深い性格と知るや、自ら進んで去勢しました。陛下に取り入るために、自らの体を厭わないのです。自分の体を大事にしない者が、どうして主君を大事にすることができるでしょう。」

 「うーん、なら衛国の王子である開方はどうであろうか。」

 「いけません。そもそも人として、自分の親を大事にするのは当たり前のことです。それなのに開方は、僅か10日余りの距離にある衛国に、この15年一度も帰っていません。陛下に気に入られるために、自分の親に孝行を尽くさないのでする。自分の親を大事にしない者が、どうして主君を大事にすることができるでしょう。」

 「そうか、では易牙はどうであろうか。」

 「いけません。そもそも人として、自分の子を大事にするのは当たり前のことです。それなのに易牙は、陛下が食通で人肉以外は全て食したことがあると知るや、我子を蒸し焼きにして陛下の御膳に並べたのは、ご存知のとおりです。陛下に取り立てられるために、自分の子に慈愛をかけなかったのです。自分の子を大事にしない者が、どうして主君を大事にすることができるでしょう。」

 「ならば、誰にせよと申すのか。」

 「隰朋なら適任と存じます。隰朋は、清廉潔白な人柄で、欲が少なく、信義に厚い性格です。潔白であれば人民の模範となることができ、清廉であれば大事を任せられます。欲が少なければ人民を率いることができ、信義に厚いと諸侯と親交することが出来きるのです。彼こそが、覇者の補佐役にはうってつけなのです。」

 「そうか、わかった。」


 このやりとりがあった1年余りの後、管仲が死去した。桓公は、約束に反して、隰朋ではなく豎□を宰相とした。しかし、それから3年後、桓公が南方の堂阜に旅行したとき、豎□は易牙、開方その他重臣と語らって反乱を起こした。桓公は捕えられ、南門のそばの寝殿の一室に幽閉され、水も食事も与えられず餓死した。そして、死後もそのまま放置されて3ヶ月間埋葬されなかったため、蛆虫が部屋に溢れ、扉から這い出ていたという。桓公の軍が天下狭しと闊歩し、桓公は五覇の筆頭にまでなったにもかかわらず、最後は家臣に殺されて名声は地に落ち、その上、天下の笑い者になった。何故か。管仲の言葉を用いなかったからである。

 だから、『過ちを犯しているにもかかわらず、それに対する忠臣の諫言無視すると、世間の失笑を買うことになる。』と言うのである。

 実は、この話は正しくない。というのも、桓公は管仲の遺言どおり、隰朋を宰相に任じたからである。ただ、隰朋がその激務に耐えられずに就任して一年足らずで他界し、後を継いだ管仲の親友鮑叔牙も、また、一年で他界してしまったのである。覇者を補佐する宰相とは、それ程の激務であったということである。その後、桓公は豎□を宰相に登用したのだが、多分、豎□も宰相の激務に耐えられなかったのだろう。このままでは先の二人と同じで自分が死ぬと思い、反乱を起こしたのだろう。つまり、隰朋と鮑叔牙は、わが身を犠牲にして桓公に仕えたのに対して、豎□はわが身を犠牲にできなかったのである。
 人の本質は、常日頃の態度から、窺い知ることができるということである。そして、その本質が最も表に現れるのは、追い詰められたときである。豎□も、宰相になって、追い詰められなければ、裏切ることも無かっただろうに・・・。



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