韓子(韓非子)
☆☆☆人と上手に付き合うための方法を徹底追求☆☆☆



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第10篇 十過
第5節 貪欲は破滅のもと

『貪欲で利益ばかりを追い求め、自身や国の破滅を招くこと。』とはどういうことか。

 昔、知国の君主であった知伯瑤が趙国、韓国、魏国を率いて、范国と中行国を滅ぼした後のこと。

 数年間は平和な月日が流れた。ところが貪欲な知伯は、領土拡大欲に駆られて、同盟国である韓国に対して領土割譲の要求を突きつけた。この無礼な要求に対して、韓国の君主であった韓康は、キッパリと断ろうと決心したが、それを重臣の段規が諌めた。

 「陛下、断ってはなりません。知伯という男は非常に貪欲な男で、断れば必ずこの韓国に兵を差し向けることになるでしょう。しかし反対に領土を割譲すれば、知伯は図に乗って他国に同じ要求をすることになるでしょう。その他国が要求を断り、その国を攻めることになれば、わが韓国は当面の害から免れることになり、情勢の変化を待つことができるのです。ここは割譲すべきです。」

 「うむ、わかった。そなたの申す通りにしよう。」


 韓康は使者を遣わして、知伯に対して5万石の領土を割譲すると伝えた。これに味を占めた知伯は、今度は魏国に対して同じ要求を突きつけた。魏国の君主であった宣子は拒否しようとしたが、これを重臣の趙葭が諌めた。

 「知伯は先年、韓国に対して同様の要求を突きつけました。これに対して韓国は、5万石の割譲でこれに応えました。今回、わが魏国が領土を割譲しなければ、知伯は怒りに任せて攻め込んで来るに違いありません。ここは恥を忍んで要求を呑むべきです。」

 「うむ、悔しいが、ここはひとまず譲歩しよう。」


 宣子も使者を遣わして、知伯に対して5万石の領土を割譲すると伝えた。そこで、更に図に乗った知伯は、今度は趙に対して蔡と皐狼の地を割譲するよう要求した。これに対して趙の君主であった襄子(趙無恤)は、拒否した。怒った知伯は、韓国と魏国との間に密約を交わして、趙国を攻め滅ぼす準備を始めた。この動きを察知した襄子は、大老である張孟談を召し出して相談した。

 「知伯という人物は、他人のことを思いやるふりをして、実は己自身のことしか考えない輩だ。韓国と魏国には、既に3度使者が往来したが、わが国にはまだ一度もやって来ていない。これは要求を拒否したわが国に攻め込む準備をしているのに違いない。そこで我々は、何処を拠点としてこれを迎え撃てば良いのだろうか。」

 「それなら晋陽がよろしいと存じます。かの地は、簡主様の功臣でありました董閼于殿が治め、それを尹鐸殿が引継ぎ、その善政は現在まで続いております。そこならまず容易く攻め落とされることはありません。」

 「そうか、晋陽か。わかった。」


 襄子は、晋陽を拠点と決めると、延陵生将軍を召し出し、戦車隊と騎馬隊を率いて先発させた。襄子自身も後発隊を率いて晋陽に赴いた。襄子は、到着するや否や、篭城戦に備えて、自らの足で城郭と倉庫を点検した。すると、城郭は崩れたまま放置されており、倉庫は食料庫だけでなく、金庫、武器庫、兵装庫に至るまで空っぽであり、とても敵兵を迎え撃てるような状況ではなかった。懼れ慄いた襄子は、すぐに張孟談を呼び出した。

 「どういうことだ。城郭は崩れたまま放置されているし、倉庫は全て空っぽではないか。」

 「陛下、何を取り乱されております。ご安心下さい。昔から聖人の政治は、民に貯蓄して倉に貯蓄しない、モラルを修復して城郭を修復しないと申します。ですから民衆に対して、向こう3年間生活するのに必要な食料、金銭等以外はすべて国庫に納付するよう命令するのです。また手の空いている者は、城郭の修理をするよう命令するのです。


 そこで襄子は、その日の夕刻までに御触れを出した。すると、朝には食料庫からは食料が溢れ、金庫には銭が堆く積まれ、武器庫、兵装庫にも入りきらないくらいの兵武器が積まれていた。5日後には城郭の修理も完了し、迎撃の準備は整ったかに見えた。再び襄子は、張孟談を呼び出した。

 「城郭の修理も終わり、迎撃の態勢は一応整った。金銭や食料は豊富に有り、武器や兵装も足りているが、ただ、矢だけが足りないのだ。どうしたものか。」

 「ご心配ありません。董将軍が晋陽を統治されていた折、宮殿の垣根は矢の材料となる荻等で作られたと聞いております。その垣根は既に成長しておりますので、これを利用されれば宜しいと存じます。」

 試しに採取してみると、丈夫で有名な菌輅の竹製の矢に匹敵する程の矢ができた。

 「帥の申した通り矢は出来たが、今度は鏃がの材料となる銅が足りないのだが。」

 「それもご心配には及びません。董将軍が、宮殿のベランダは全て銅で作ったと聞いております。」


 確認してみると、確かに銅で作られており、鏃を作るのに充分な銅が採れた。号令も決まり、迎撃の態勢が万全となった頃、3ヶ国の連合軍が来襲した。連合軍は簡単に打ち破れるだろうと思い、晋陽城まで急進して来たが、3ヶ月経っても打ち破ることができなかった。そこで作戦を変更して晋陽城を遠巻きに包囲し、近隣の河川を決壊させて水攻めにすることにした。水攻めをすること3年、その間、城内の人々は樹木の上で生活し、炊事等は木にかけ行っていた。しかし3年も経過すると食料も殆ど無くなり、城中の人々の衰弱も尋常では無かった。この状況になり、襄子はとうとう降伏しようとして、張孟談に相談した。

 「食料や財貨は尽きて、城中の人々も衰弱しきっている。これ以上、民を犠牲にして城を守り通すことはできない。降伏しようと思うが、3ヶ国のうち、どの国に降伏すれば良いだろうか。」

 「お待ちください。智略というのは、国を滅亡の淵から救い、危難を安んじるためにあるものです。どうかお任せを。」


 張孟談はそう言うと、自ら城を抜け出して、韓康と宣子に密会した。

 「唇が無ければ歯は寒いと言われています。知伯は両陛下と共に趙に攻め入り、今や趙は滅亡の危機に瀕しています。趙が滅亡すれば、次は両陛下の韓国か魏国になるのは当然のこと。どうされるおつもりですか。」

 「我等とてそのことは重々承知している。しかし、知伯という男は他人可愛がるふりをして、実は己が一番可愛いという男である。もし、この謀議が漏れれば、我等が攻め殺されるのは必至である。だから裏切れんのだ。」

 「ご安心下さい。両陛下のお言葉は、そのお口から臣の耳に入っただけのこと。どこから漏れることがありましょうや。」

 「・・・・・・。」

 「この機を逃せば、座して滅亡を待つようなものですぞ。」

 「わかった。その策に乗ろう。」


 韓康と宣子は、張孟談と裏切ることを約束して、その日時を決めた。夜になり、張孟談は城に戻って襄子に報告した。襄子は喜び、張孟談を再拝の礼で出迎えた。明くる朝、韓康と宣子が智伯の陣に出向いた時、たまたま轅門の外で智過と出会った。知過は二人の堂々とした態度から謀略の影を読み取り、すぐさま知伯に進言した。

 「韓康と宣子の態度はいつもと違います。これは何か謀略のある証拠です。」

 「どういうことだ。」

 「いつもと違って意気揚揚としています。先手を打たねば拙いことになりますぞ。」

 「二人とは、これまでもずっと仲良くやっている。その証拠に、趙を攻め滅ぼして、領土を3分割すると約束しているではないか。それに晋陽を包囲して3年になる。まもなく趙を攻め滅ぼせるという時に、どうして裏切るのだ。」

 「しかし。」

 「もうよい。そんなことは忘れろ。そして、決して口外するではないぞ。」


 知伯は知過の諫言を聞き入れなかった。次の日も、知過は韓康と宣子に轅門で出会った。その様子を見て知過は知伯に言った。

 「韓康と宣子に昨日の一件を言われましたね。」

 「よくわかったな。」


 「二人と会った時、顔色を変えて目を逸らしたので解りました。これは紛れも無く謀議を企んでいる証拠です。すぐに殺してしまいましょう。」

 「何をバカなことを言っている。そんなことできるか。」

 「ならばもっと親密になるようにして下さい。」

 「どういうことだ。」

 「魏の重臣である趙葭と韓の重臣である段規は、それぞれ君主の考えを変えさせる程の実力を持っています。この二人に趙滅亡の暁には、それぞれ5万石をくれてやると約束するのです。そうすれば、韓康と宣子の裏切りを未然に防ぐことができるでしょう。」

 「趙を3分割した上に、それぞれ5万石も与えれば、わしの取り分が少なくなるではないか。ダメだ、ダメだ。」


 知伯はまたも知過の諫言を聞き入れ無かった。先を憂いだ知過は、一族を連れて陣からこっそれと抜け出した。そして姓を輔に変えて何処かに移り住んだ。

 期日の夜、趙国軍は、堤防の見張り番を殺して決壊させ、水を知国軍の陣地に流し込んだ。
 知国軍が水を防ぐのに混乱している機に乗じて、両翼に居た韓国軍と魏国軍がこれを攻撃した。趙国軍は、正面から攻めかかり、大敗した知国軍の中から、知伯を生け捕りにした。知国軍は敗れ、知伯自身も処刑され、その遺領は韓国、魏国、趙国で3分割され天下の笑いものになった。

 だから、『貪欲で利益ばかりを追い求め、自身や国の破滅を招くこと。』と言うのである。

 自分の利益ばかりを追い求め、他人の利益を無視していると、自滅するということです。例えば、自分がラーメン屋を開業したと考えてください。利益ばかりを追い求めて、原材料費をケチっていたら、客足は遠のくばかりです。採算は度外視し、客の喜ぶようなラーメンを作れば、店舗は活況を呈し、利益は勝手に転がり込んでくるのではないでしょうか??



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