韓子(韓非子)
☆☆☆人と上手に付き合うための方法を徹底追求☆☆☆



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第10篇 十過
第4節 快楽にばかり耽ること

 『音楽(快楽)に耽(ふけ)って政治を顧みず、身の破滅を招くこと。』とはどういうことか。

 昔、衛の霊公(れいこう)が晋の平公(へいこう)と会談しようと出掛けたときのこと。
 その途中、霊公は、濮水(ぼくすい)の辺で野営をした。夜更けになると、どこからともなく美しい調べが霊公の耳に聞こえて来た。
 「お前達、この曲を知っているか。」

 霊公は、側に控えていた家臣達に聞いてみました。しかし、家臣達の誰一人としてその曲を聞けた者が居ませんでした。不思議に思った霊公は、お抱え楽師である師涓(しけん)を呼び出した。
 「今、わしには美しい曲が聞こえるのだが、この者達は聞こえないという。お前には聞こえるだろうか。」
 「はい、聞こえております。」
 「そうか。なら、その曲を覚えてもらいたい。」
 「かしこまりました。」


 そう言うと師涓は、その場に座り、その曲を聞き取り始めた。
 次の日、師涓は霊公に言った。
 「昨夜でほぼ調べを覚えましたが、まだ完全とはいきません。宜しければ、もう一晩聞き取りたいのですが。」

 霊公はその願いを聞き入れ、もう一晩濮水の辺に逗留した。その次の日、師涓が調べを写し取れたことを確認して、一行は晋へと向かった。
 霊公が晋に到着すると、晋の平公は、霊公の来訪を歓迎し、施夷の御殿で宴を催した。その宴席が盛り上がった頃、霊公は平公に言った。
 「つい先日、新しい曲を手に入れました。宜しければ、お披露目したいのですが。」
 「それは結構なこと。私も音楽は大好きです。是非お願いします。」

 霊公は、師涓を呼んで、先日の調べを演奏するよう命じた。平公も、師涓一人では寂しいということで、晋の楽師である師曠(しこう)に、うまく合奏するよう命じた。師涓が演奏を始めて暫くすると、師曠は突如立ち上がって演奏を手で遮り、平公に言った。
 「どうかお止めください。これは亡国の曲です。この曲を聞いた者は必ず領土を削られると申します。最後まで聞いてはなりません。」

 これに対して霊公は言った。
 「亡国の曲とな。この曲にはどのような言い伝えがあるのだ??」
 「これは、殷の紂王(ちゅうおう)の楽師であった師延(しえん)が作ったものです。紂王のために、特に美しく物悲しく作ったものです。」
 「紂王のためにか。」
 「師延は、紂王が周の武王に討たれた時、東方に逃げました。しかし、追手を振り切ることができず、とうとう濮水に飛び込んで死んでしまったそうです。それ以来、濮水ではこの曲が聞こえると言いますので、霊公は、多分その辺りで手に入れられたのでしょう。それ以来、この曲を聞く者は、必ず領土を削られると言われているのです。」
 「そうか。しかし、わしにとって音楽が唯一の楽しみなのだ。最後まで演奏するように。」

 師涓は仕方なく、最後まで演奏した。演奏が終ると平公は師曠に尋ねた。
 「ところで、この曲は何と言うのだ。」
 「はい、清商と言います。」
 「ほう、清商と言うのか。この曲よりも美しく物悲しい曲は無いのだろうか。」
 「清微というのがあります。」
 「そうか、その清微とやらを聞かせてもらいたいのだが。」
 「陛下、それはなりません。清微を聞くことができた昔の君主達は、皆有徳の方々で、今の陛下では到底及ぶところではありません。聞かれると、どのような禍を招くことになるか思いも依りません。」
 「わかっている。しかし、わしはどうしても聞きたいのだ。唯一の楽しみを奪わないでくれ。」


 こう言われると師曠は、断りきれず、とうとうその曲を奏で始めた。第一小節を奏でると、黒い鶴28羽が南方より飛来し、回廊の門の棟に止まった。第二小節を奏でると、一列に並び、第三小節になると首を差し出して鳴き、翼を広げて舞い、その鳴き声は宮商の曲のようであり、天高く響いた。平公は大いに満足し、列席した者達も大変喜んだ。そして平公は杯を手に立ち上がった。
 「師曠よ、流石である。これからも長生きしてわしに仕えてくれ。」

 師曠は平伏した。平公は坐に戻ると、改めて師曠に問うた。
 「清微の調べは絶妙である。しかし、これより美しく物悲しい曲は無いのだろうか。」
 「いえ、清角というのがあります。」
 「ならば、それも一つ聞かせてくれないか。」
 「絶対になりません。清角の調べは、黄帝が、鬼神を泰山の頂上に集め、象牙の車を6頭の龍に引かせて、車の横には畢方、前には蚩尤を従え、風伯と雨師を露払いに、前方には虎狼、後方には鬼神、地上には蛇、空中には鳳凰に守護させ、ありとあらゆる鬼神を集めて作曲したものです。これを聞くためには、黄帝に匹敵するだけの徳が必要です。」
 「わかっておる。しかしわしは、既に年老いており、老い先短い身じゃ。どうか願いをかなえてくれぬか。」


 師曠はまたも断りきれず、とうとう弾くことになった。しかし今度は、第一小節を奏でると、西北の方角からにわかに暗雲が立ち込め、第二小節を奏でると、強風とともに豪雨が襲ってきた。帷幕は裂け、俎豆は破れ、回廊の瓦は吹き飛ばされ、その場に居合わせた者達は散り散りに逃げ出した。平公は、恐れ慄き、廊下と部屋の間で伏せて、嵐が通り過ぎるのを待った。その後大旱魃が晋国を襲い、それが3年間続いた。平公自身も、篤疾にかかり、生死の境を彷徨った。

 快楽ばかりに耽っていると、自分の寿命を縮めて、国まで滅ぼしてしまうということです。現代風に言えば、タバコでしょうか。日本人の多くはタバコの害を知っていながら、知らないフリをします。タバコは癌の発症率を爆発的に増加させ、痴呆にもなりやすいものです。この晋の平公も、まさかそんなことは起こらないと思って音楽を聴いたのではないでしょうか。あなたも、自分は大丈夫と思って、タバコを吸っているのではないですか??
 



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